
アツモリソウは、春先から生育を開始し晩春5月から6月に開花し、夏の終わりにはその年の生育を終えて落葉し休眠に入るというライフサイクルを持ちます。その栽培にはいくつかのコツがあります。栽培困難種である国産アツモリソウではなく交配種や自生の広い原種は強健で栽培が楽です。新しい楽しみとしておためしください。
【植え込み材料】
適度な保水力と排水性に富んだ団粒構造の用土が適します。従って、鉢植えの場合は鹿沼土、日向土などの火山噴出土を中心にすると良いでしょう。庭植えの場合は、粘土質で排水の悪い土の場合は軽石や鹿沼土、あるいはパーライトなどを入れて排水を良くする工夫をしましょう。腐食有機質を豊富に含んだ土である必要はありません。腐葉土は、経時により変質しやすい事、有害菌の保菌の懸念、質の優劣があり利用には注意が必要です。有機質を加えるならば牛糞堆肥を1割ほど混入することをお勧めします。有機質はコンポストの全量の2割までとする方が安全です。
お勧めの用土例
鉢植え : 鹿沼40% + 日向40% + 牛糞堆肥10% + 燻炭10%
上記用土に植え、植え付け後、牡蠣殻かゼオライトを少量振りかける。
上部はクリプトモスで被覆する。
庭植え : 庭の土 + パーライト + 牛糞 + 堆肥 + 燻炭
庭の土を20cmほど良く耕したのち、混入する。
上部はクリプトモス等で被覆する。
【植え付け】
アツモリソウ類はあまり深くに根を張りません。地下10~15cmに新芽から放射状に根を伸ばす性質があります。従ってあまり深くまで耕す必要はありません。庭植えの場合は、調整した土壌に植える場所を掘り新芽がわずかに隠れるくらいに土をかけて下さい。
その際になるべく根を広げて植えるようにしてください。また植え付けた後に強く圧迫せずふんわりと植わるようにし根の周りの空気の流通がある方が好適です。
地植えの場合も鉢植えの場合も植えた後には、表面を保湿・保温・防虫のためにクリプトモス等で覆っておくとなおよいでしょう。
【植える場所・置き場所】
夏季の昼間に炎天下にならず午前中だけ陽の差す場所が良いです。意外なことに建物の北側は特に推奨されます。シダ類とギボウシが良く育つ場所ならば継続栽培が可能です。
鉢植えの場合は極端な乾燥を周年避けられ、炎天下にならない場所が好適です。
年間の管理
【冬季の管理】
アツモリソウは冬季に休眠をします。この間は栄養成長をほとんどしませんので春に新芽が動き出すまでは殆どすることがありません。鉢植えの場合は極端な乾燥を避ける工夫をしましょう。関東近県の温暖な土地では、地植えの場合は冬季の極端な乾燥以外に気を付けることはありません。マイナス5℃以下になる寒さの厳しい地域では、植え付けた株の上をクリプトモスなどで5cm程被覆し凍結対策をしましょう。アツモリソウはマイナス25℃まで耐えられる耐寒性の非常に強い植物ですが、凍る→溶ける を繰り返すとダメージを受けます。これを避け穏やかな冬を過ごさせるために被覆は必須になります。
大前提としてアツモリソウは冬季3か月ほどは5度以下で管理する必要があります。
東京などの関東の南岸エリアでは?
戸外の無加温の置き場所が好適です。雨ざらしになっても問題はありません。むしろ夜温が常に10度以上ある屋内や、温室内は避けてください。また新芽が伸び始めるまでは暗い場所でも問題ありません。
ポイント!
アツモリソウにとって夜温5度以下になる冬季が3か月ほどあることが重要です。そのため冬季の置き場所として東京の戸外は程よい寒さであり適しています。東京などの関東南岸エリアでは冬季は戸外に置きましょう。
温室内は×です。
【芽出しから開花までの管理】
アツモリソウは春先に新芽が地上部に出てからわずかな間にドラマチックな成長を見せます。この間は日々の生育に一喜一憂しながら開花も楽しめる最も楽しみな時期になります。この時期に注意したい事は、遅霜や晩春の降雪と強い雨による泥はねです。新芽の伸長期に遅霜や降雪が予想される場合はビニールや不織布などで被覆をして保護をしましょう。また開花するまでの時期のアツモリソウは植物体が柔らかく繊細です。鉢植えの場合はなるべく株元のみに灌水をするようにしましょう。適切な光量の下で育った株は支柱の必要はありませんが必要をお感じになる場合は適宜支柱をしましょう。強い雨の時には葉裏に泥跳ねをする場合がありますがこれも避けたい事態です。泥跳ね対策は何と言っても地表の被覆が一番です。冬季にクリプトモス等で被覆をしている場合は問題ありません。
【アツモリソウの施肥】
アツモリソウは春先に伸びる新芽の根元に新しい根を伸長させこの新根と新しい葉から肥料を吸収します。従って、新芽の伸長に合わせて施肥を行うことになります。我が国のこれまでのアツモリソウ栽培においてはこの時期に相当量の有機肥料を施肥することが良いとされてきましたがどうもこのスタイルはリスクが大きいようです。現在主流の施肥は新芽の伸長から水がわりに薄い液肥を施すというやり方です。丁度パフィオの施肥に似ています。鉢植えならば灌水の度に、4000倍ほどの液肥を施しましょう。1000倍ほどの液肥の葉面散布を併用すると更に素晴らしい効果があります。俗説として、冬季に有機肥料をやるという考えがありますがこれはリスクしかありませんので止めたほうが賢明です。
【植え替え】
地植えの場合は株分け以外の目的で植え替えの必要はありません。
鉢植えの場合は10月に地上部が枯れた後に鉢内の状態確認も兼ねて植え替えをすると良いでしょう。植え替える場合、鉢はやや大きめのものを選択してください。洋ランのように株に対して小さめの鉢を選びますと鉢内が乾きやすくなり生育期の管理が難しくなります。また、小さな鉢は外気温や太陽光の影響を受けやすいため鉢内の温度や乾湿が不安定になりがちです。容積の多い大き目の鉢のほうがアツモリソウには好適で生育疎外の要因にはなりません。
簡単な説明ではありますが、パフィオを育てておられる皆さんには難しいものではありません。この機会に試作も兼ねて是非お手元でカジュアルなアツモリソウを咲かせて下さい。
新しい魅力のアツモリソウをこの機会にお楽しみいただけましたなら幸甚でございます。