A short story of dayanum

ボルネオ原産のdayanum(日本ではダイアナムと呼びますがアメリカではデイアナムと呼んでいます。)はシンプルで清楚な姿ながらペタルが横張りし、大きいものでは17cmを超えるような大輪となり中々存在感のあるものです。

閑話休題、蘭界には伝承的に‘お金持ちのらん‘と呼称されるような種が散見します。日本国内ではProstechea chacaoensis `Suzuki`が代表的お金持ちのらんとして知られます。この種は独特のオーキッド調の癖のある良い香りを持ちますが、この香りを好む方になぜか高額所得者が多かったということから‘お金持ちの好む蘭=お金持ちのらん‘として認知されたものです。(この逸話はHオーキッド時のY.Sさんが各所で語り広めたものです。)

アメリカにおいてこの‘お金持ちのらん‘的なものについて蘭園関係者に尋ねますと異口同音にPaph.dayanumを上げます。正直なところdayanum以上に独創的で存在感の高い蘭などは履いて捨てるほどあります。主観にもよりますがdayanumを指して最高に芸術的というのはかなり無理があります。アメリカ西海岸の蘭園関係者がdayanumについてこのような印象を同時に持っているのは、一見シンプルで飾り気のないこの種を好む高額所得者を客としてたびたび相手にしてきたからに他なりません。そのため「dayanumって、シャビーだけど何故か金持ちが好むんだよな」というミステリアスな印象を持ったようです。

私が本種の実物を始めて見ることができたのは1980年代中盤のことでした。当時私は神奈川県藤沢市のハタ・オーキッドに学生アルバイトとして頻繁に出入りしていましたがそのハタ・オーキッドにボルネオから輸入された一連のパフィオの原種の中に本種dayanumも入っていました。入荷時はかなり希少種としてとらえられていたように思います。dayanumのシルバーグリーンに濃いグリーンのモザイク模様を持つ葉は大振りで中々堂々としたものでしたが当時は他にもスターと呼べるような、hookerae, volonteanum, violascens,などの美花種が相次いで輸入されていたこともあり脇役的な存在であったことは否めませんでした。

価格もスター種に比べると本種とtonsumは格段に手ごろであったと記憶しています。開花を始めますと野趣の中に存在感のあるパフィオの原種らしい魅力的なものでした。この時の入荷株の中からは`Flappers` `Shirasaki`などいくつかの入賞花が生まれています。学生の私もハタ・オーキッドに度々足を運べる強みを利して後に自分で‘Gumbo`と命名した個体を入手し愛倍していました。

dayanumは自生地において垂直分布の比較的広い種として知られます。高地に自生する個体群はハイランドフォームと呼ばれ、やや葉幅が狭く華奢な株で花はペタルが水平に近く展開しNSが大きなものが咲きます。花色は若干薄い傾向があります。一方で低地産の個体群(ローランドフォーム)は葉幅広く大柄な株となり、濃色でペタル幅もある花を咲かせますがペタルは斜めに下がる傾向があります。当時、ハタ・オーキッドで私が出会った個体群は上記の分け方で言えば間違いなくハイランドフォームのものでした。(ローランドフォームの代表的入賞花は `Tokyo`です。)

実は北軽ガーデンの交配台帳における最初の交配はこのハイランドフォームのdayanumのシブリングでした。手持ち個体の`Gumbo`にお客様よりいただいた入賞花 `Shirasaki`BM/JOGAの花粉を乗せて試みたものでした。大志なく試みたものでしたから大半は開花前に販売してしまったことだったと思います。開花まで面倒を見た個体の中、特に大輪で見事な花だった個体を大阪の著名原種コレクターのMさんに差し上げたところ卓抜とした栽培技術で満作に仕上げ見事な花に昇華していただきました。この個体は `Big Dream`と命名され展示のたびに各所で話題をさらう有名個体となりました。この個体はMさんからさらに東京のSさんに譲渡され2019年にGMを受賞しています。当園の最初の交配がこうして長い時間をかけ幾人にも愛倍されたのちに高い評価を受けたのことには少し頬の緩む思いをしています。長くやっているとよいこともあるものです。